我が名はアラム (福武文庫―海外文学シリーズ) |
19世紀にトルコ人による大量虐殺を逃れるため、多くのアルメニア人がロシア、欧州、米国に移住した。
著者であるサローヤンは、20世紀初頭にカリフォルニアに生まれた移民2世である。 大戦前にはベストセラー作家になっているが、昭和三〇年以降の世代にはほとんど知られていない。 僕がこの小説を読めたのも不思議なくらいだ。 同時代のヘミングウェイやスタインベックの作品とは、異なり、哀愁と苦渋に満ちた生活なのに 気負いもなく、淡々としていて、しかも洗練された作風である。 この小説の主人公、アラム・ガローラニアンもアルメニア系アメリカ人である。 移民一世の親や親戚たちに囲まれながら、アラムの少年期から思春期、そしてニューヨークへの旅立ちが語られる。 まさにサローヤンの自伝的小説だろう。 祖国喪失者の哀愁に彩られながら、颯爽としていて、ウィットに富んだ洗練された文章が印象的で、 アラムの少年らしい、人生に対する真摯さと情熱が心を捉える素敵な作品である。 小学校で一番の従弟のディクランのことを自慢する叔母に対して、アラムの祖父が吐く言葉が、僕は好きだ。 『いったいそのこはどの点で賢いんだ。11じゃないか。どれだけ利口なんだ?可哀想に自分も一かどの人間だと意識させるような重荷を誰が子供に持たせたがるのだ』 次は、サローヤンが父親になってからの作品、""Papa, You're crazy!""を読んでみたい気持ちになった。 |
第四次元の小説―幻想数学短編集 (地球人ライブラリー) |
四次元超立方体、メビウスの帯、特殊相対性理論、クラインの壺、位相幾何学、確率論、フェルマーの定理。人類の財産ともいえる、これら数学基礎論的テーマを小説にしたらどうなるの? という疑問に答えてしまう異色アンソロジーだ。 SF小説やポストモダン小説で、数学理論が比喩的に使われることはよくある。だが、ここに収録された短編小説たちはどれも数学の方が主役だ。数学理論が理念モデルとして証明されても、それがすなわち実世界に必ず当てはまるとは限らない。そのことを逆手にとり、もし実際に存在してしまったら? という小説的な想像の力でこの本は構築されている。さらに、どの短編も戦前に書かれたものだというのだから驚きだ。数学をモチーフにするという魅力は、今のところまったく衰!!えることを知らないようだ。 |