墨東綺譚 [DVD] |
遊郭に
「世の中の真実がある」というスタンスで映画が進行しますが 「遊郭に身を落とした人間は結局は幸せになれない」という結末を持ってくるあたり、見ていて少し辛い。ここを最初と最後に出てくるストーリーテラー役の「作家」にうまく語らせているところはうまい。 この映画のよさは、そんなところではなく、何気ないせりふが、かなり粋だったり、男と女、はいつでもどこでもそんなに変わらないということを語っている点です。 山本富士子さんの、引っ付くくらいの、男にまとわりつく愛情の表現はすごく良い。それが一番の見所です。あれくらい素直な愛情表現ができるといいねえ。 |
墨東綺譚 [DVD] |
うまく言えない切なさや哀しさのある素敵な作品でした。 元の永井荷風の作品自体が素晴らしいだけに、映画化も難しかったとは思いますが 津川さんが凄まじく演じきっています! 遊女ものはちゃんとした廓ものが多いですが、岡場所系の空気と 大正昭和の切なくどこかロマンティックな空気を感じたい方にはお薦めです。 |
あめりか物語 (岩波文庫) |
永井荷風の約4年にわたるアメリカ滞在で、都会の汚濁と喧噪に、大陸の自然の多様性に、そして人情の機微に喚起されて得た表象を綴った短編集。荷風が、文明開化から一世代を隔てた時に、失われ行く日本文化とその対極としての西洋文化をしっかりとみる眼を持つに至るその経緯がこの作品に読みとれる。正確には、「ふらんす物語」をも読んで、と言うべきだが、荷風のロマン主義と文明批判の立場が、彼のアメリカ滞在中に出来上がったことが見て取れる。 ほぼ百年前に書かれた、というところに、この作品を今読む意味があると思う。あふれかえる物や情報に埋まって、日本社会は、社会・経済を含めて、天井に突き当たり先行きが見えない。このような時こそ、荷風が外遊を通して身につけた冷めた眼、透した批判力、荷風文学の座標軸を、あらためて評価して良いと思う。そのような荷風の眼を通して、21世紀を迎えた日本の立っている位置が、グローバルな3次元空間に100年という時間軸を加えた四次元空間の中に見え始めると思うから。 ついでに、この作品は、文庫本では、現在、講談社学芸文庫や新潮文庫でも購える。文庫本でも、岩波版の字が最も大きく、年配者にはありがたい。新潮文庫版は、字がやや大きいと共に、ルビが多い。岩波版は初版準拠。手に入りやすいこれら三種を比較して、字の違いにとどまらず、中身の違いをみるのも面白い。これは、どの版を買おうかと迷った時の感想。 |
〓東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫) |
「わたくし」=大江匡が、玉の井に通い始めるに至るいきさつは、執筆する小説の主人公が失踪して落ち着く先を取材するためと、隣家のラディオの音が気になって執筆や読書ができないというもの。ぷらぷら歩いていると突然の雨。いつも持ち歩いているこうもり傘を開いたそのとき、真っ白な首をつっこんで「入れてってよ。」と入ってきたのがお雪だった。
明治生まれ・明治育ちの「わたくし」(荷風自身でもある)が、大正育ちの人々を「現代人」と批判し、特に震災後に復興した新しい町並みや文化を受け入れられずにいるのが、現代の便利な社会や若者文化に馴染めない中高年には何とも共感できる。 ラディオの音のしない、風鈴と蚊の羽音だけが聞こえるお雪の家で過ごす時間は、初老の作家にとっても、客をとる生活をするお雪にとっても、何ともほっと落ち着く日常とは異なる別世界であった。 今、「隠れ家風」の飲食店が流行だが、いつの時代も人は落ち着く隠れ家を求めるのだろうか。 木村荘八の挿絵が見事で、ますます想像をかきたてる。行間もたっぷりとってあり、他社の文庫本よりもはるかに読みやすい。 |