グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA) |
夏のリゾート地をイメージした仮想空間に住むAIたちと、そこを食いつくそうとする蜘ちゅうの一夜の攻防。
こんな筋を追うだけでは、彫琢された文章で彩られた物語の美しさを楽しむことは出来ません。 ゴシック建築の図像を一つずつ読み解くように、シンフォニーの調べに載った音の流れを追うように、言葉の紡ぎだす芳醇なイメージを楽しんでください。 飛氏の小説を読むと、文章表現の可能性が広がったような気がしてきます。 未読の方は、より一層洗練された文章が世界を創る短編「象られた力」も併せてどうぞ。 |
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA) |
四つの中短篇からなる作品集。 思うに、著者は官能の人なのではないか。 あるいは、官能を言語化することに何かこだわりを持っているのではないか。 「官能の言語化」というと詩的な表現を連想してしまうかもしれないが、 著者の書く官能は、しっかりとした小説の文体で示されている。 表紙の「kaleidoscape」という言葉は、なるほど本書の読書体験をうまく表現している。 あるいは、様々な種の官能を液化させ、スープにして飲み込んでいくような読書体験。 小説家とは文芸家でもあるが、この著者は優れた芸を身につけているようだ。 物語の作り手としても、癖のあるアイデアに満ちたおもしろい話を書いている。 よい意味で期待を裏切る展開がどの話にも組み込まれており、飽きずに読ませる。 四篇のうち三篇は、表現の巧みさもあいまって、非常に官能的で印象的だった。 ただ、短篇ではどうにも窮屈そう。 この密度で、まして兼業作家ともなれば、寡作であることも宜なるかな。 |
ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション) |
まるで自分の作品のインサイドストーリーを楽しんでいるかのように、綺麗に「グラン・ヴァカンス」の欠落を埋めていく。見事な作品群だ。硝視体とジュリーの出会いをリリカルに描き、前作でほのめかされたエピソードを丁寧につないでゆく「夏の硝視体」。
「ラギッド・ガール」では、美醜の両極を残酷な美しさで一つに纏め上げる。区界の成立過程を、退屈な説明に堕することなく描いていく。「蜘蛛の王」は圧巻のアクション小説。しかもまた哀しさに満ちていて、作品世界を補完している。 |