旅をする木 (文春文庫) |
何度、この本を読み返しただろう。初めて読んだのは高校生の時だったと思う。息のつく間もない生活を余儀なくされる東京で思春期を迎えていた僕は、星野さんの言葉に出合って救われた思いがした。写真もそうだけれど、星野さんの文章も優しい。しかし、それは甘やかすような優しさではない。自然の優しさがそうであるように、強さをも内包した優しさなのだと思う。この本にはいくつもの心温まる物語が収録されている。そして、それらの物語に加え、いくつもの素敵な言葉がさらなる彩りを添えている。
例えば、、、 「ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは天と地の差ほど大きい。」 「私たちが生きることができるのは、過去でもなく未来でもなく、ただ今しかないのだと。」 忙しい生活を送っている人にこそ、この本を手にしてほしい。慌ただしい生活に身を任せていては感じ取れない「もうひとつの時間」が例外なく全ての人の心の奥底に流れている。星野さんの言葉が、忙しい生活で固まってしまった僕らの心を解きほぐすきっかけを与えてくれる。 |
ノーザンライツ (新潮文庫) |
図書館でふと手にして読み始めたら、すぐに引き込まれてしまいました。著者に関しては、アラスカに詳しい写真家さん、というくらいの認識しかなかったのですが、その卓越した文章力に唖然!「本当に写真家の人が書いたの?作家じゃなくて?」という感じでした。 アメリカの経済社会に組み込まれ変貌しつつあるアラスカを愛し、そこで生きていく人々の心の機微がとても丁寧に描かれていて、繊細なのに圧倒される、とてもパワフルな本です。アラスカの自然の描写も美しく、写真も多く載っていて興味深く読みすすめられます。 アメリカ政府による核実験の実験地にされかかったアラスカの町を、その危険性に気付いた人々が救っていくというエピソードは、事実なだけに胸を打つものがあります。 なぜか読んでるあいだずっと胸に熱いものがこみ上げてくるので、少しずつ読み進めました。ぜひ大勢の人に読んでもらいたいです。装丁が黒いのは、きっと喪に服する意味なのでしょうね。亡くなられたのが残念です。 |
豆しば―枝豆しばとアラスカの冷蔵庫 |
CMで話題の「豆しば」の絵本。日常にある、ちょっとした凹むシチュエーションに枝豆しばが現れ、シュールな豆知識を教えてくれます。その姿が、妙にかわいくて、おかしくて、思わず笑ってしまいました。「豆しば」が好きな方も、そうでない方もじゅうぶん楽しめる内容です。まったく役に立たなさそうな豆知識ですが、明日の話のネタにはなりそう。子供よりも、大人のほうが楽しめるかも。 |
地球交響曲第三番 [DVD] |
星野道夫を主人公にして、生命体としての地球を歌い上げる美しい映像詩。
アラスカ・アリュート族のカヌーを復元したジョージ・ダイソン、ハワイの古代遠洋航海カヌーを復元してタヒチからハワイまで、5,000キロの航海を古代の技術で実行したナイノア・トンプソン、アラスカの死に絶えたトーテムポールの村、等。 デナリ国立公園を作った元女性パイロット等の星野道夫の友人達が口々に彼の思い出を語る。多くの人たちに愛された人だったようだ。 惜しいのは、テンポが遅くて若干だれ気味な所。感動を深めようと言う製作側の狙いがあるのだろうが、現代人には向かないのでは? それと、オカルトめいたものを感じる所。「霊」と言う言葉が安易に使われすぎている。精神的な深みを簡単に表現できると思ったのだろう。この問題をそのように安易に扱うべきではない。そんな大げさな言葉を使わなくても、自然の神秘的な美しさは映像だけで充分に伝わる。 |