うらおもて人生録 (新潮文庫) |
ギャンブラー阿佐田哲也の別名を持つ作家の人生論。
この本で特に目をひかれる点は、 「9勝6敗のフォーム」だと思う。 著者は「プロとして長期的に食べていくための持続のコツ」と言っているが、 生きていく中での好不調の波についての原則のようにも取れる。 だけど、もう一つ大切なのは、 「スケール(大事なときにチャランポランになれる能力)、 (自然に他人を愛していけるような土台)」ではないだろうか。 こちらの方に目を向けないと、著者自身も戒めているように 「フォーム」も単なるわがままな損得勘定になりかねないだろう。 |
怪しい来客簿 (文春文庫) |
これほど濃密な本は他にはない。そう思わせる書物です。
「右向け右」は戦時中とはいえおそらく他者とはまったく違う空間を生きた青年の世界がおどろおどろしくも美しい。 この体験記エッセイは絶対に誰にも真似はできないでしょう。 「墓」では冒頭からいきなり「亡くなった叔父」が訪ねてくるというところから書き出されます。 単なるナルコプkじゃレシーなどではかたづけられない彼と彼の一族の物語。 在るとはどういうことなのか。 違う世界を覗き込んでみたい方におすすめです。 |
狂人日記 (講談社文芸文庫) |
久しぶりに読み直してみて、感動を新たにしました。太宰治の『人間失格』にも通じる感動といったら大げさに過ぎるでしょうか。
人と繋がりたいと思う余りに、狂っていく、人に疎まれていく。切ないです。 私の手元には、函入の単行本もあるのですが、装丁に使われている絵の寂しさにも心打たれます。文庫版の後書きにもあるように、この絵が、十数年もの間、幻覚・幻聴に悩まされ、入院を余儀なくされた方が描いた作品だとの説明が、単行本にもあります。そして、この『狂人日記』は、色川武大さんの中にあった構想が、彼の絵画作品に出会って小説の形になることができたということです。 ただ、そういう構想から完成へのドラマとは別に、描写の迫力、場面の説得力、そういった小説自身が持つ魅力にも間違いなく圧倒され続ける作品だと思います。 人間が生きていく重い悲しみのようなものが満ちていました。 できたらぜひ、単行本の表紙や裏表紙の装丁も見てほしいと思いますが、文庫として、多くの人が手に取れるのは、とても嬉しいことに思います。 |